今から12年ほど前、テレビのブラウン管で全日本剣道選手権を観戦していて一人の選手に
目が釘付けなった。
あの宮崎正裕選手である。全てにおいて他の選手を圧倒し、見事初出場、初優勝を飾ってしまった。
その後の宮崎選手の活躍は剣道に携わる者で、知らない人がいないほどのすばらしいものである。
その時に目に留まったのが、宮崎選手の着けていた防具であった。当時流行していた派手な
蜀江飾りや、二重亀甲や刺しの飾りではなく、シンプルで古風なバッテンのみの顎の飾りの面や
使い勝手のよさそうな垂、であった。
とても印象的で、しかもその防具を身にまとう宮崎選手から発する氣や、オーラを感じたのは私
だけではないはずである。
あの防具はどこで作られたものなのだろうか? という興味にかられた。
その後の宮崎選手は全日本選手権の度に、常に同じ防具で出場していた。
宮崎選手の技や間の捕らえ方など、凡人の私などにはどのような修練を積んでも習得できるよう
な物ではないが、あの宮崎選手の持つポテンシャルを最大限に引き出しているのはまるで、
「あの防具」ではないかというような錯覚に陥ってしまった。
「宮崎選手が使い続けるあの防具を私も使ってみたい。」などというヒーローを追いかける少年の
ような気持ちに年甲斐もなく、なってしまった。
そして平成10年11月に、知人の紹介により、あの宮崎選手にお会いする事ができ、お話をさせて
いただく機会に恵まれた。
いろいろとお話をうかがう中、宮崎選手に「例の防具」の事を伺ってみたところ、東京の
平野武道具製だという事を教えていただいた。
早速平野武道具へ連絡してお店に伺い、自分の今まで思っていた事を伝えた。店主の平野さんは、
初めてお会いしたのにもかかわらず大変気さくで、私の話をよく聴いてくださいました。
早速、機械刺の垂と籠手を購入した。これがまたすばらしいものであった。
私の知っている機械刺とは全く異なり、柔らかく、軽量で使いやすく、そして値段が安いことに
驚いた。造りはとてもしっかりしていて、手刺の高級品と同じでしっかりしたものだし、この物で
この値段はかなりお買い得の感じがした。
籠手は、素手で竹刀を握っている感じで、手の内のさばきが上達した気になり、垂は軽量で、
まるで何もつけていない感じ、帯がしっかりと腰に巻きついて抵抗感がなく、踏み込みで股関節の
動きを妨げない自然な感触、それでいて布団 には腰があって柔らかい。今まで使っていたものは
もう着けられない感じがした。なにせ今までより軽快に足裁きができ、そして疲労感がない。
剣道が上達したと他の先生から褒められた。ためしに今まで使っていた垂と籠手を使って稽古した
ら元に戻ってしまった。
動きずらく、そして疲労感をとても感じた。どんなに良い皮を使い、素材の良い高級防具(値段の
高い) でも、機能性の悪いものでは話しにならない。
平野さんにこの防具の使用した感想を述べ、お話を伺ったところ、この機能性の追求には相当の研
究とご苦労があったという事である。
「いかに使い易いか」ばかり考えていたそうである。
この度、新たに手刺の垂を購入した。機会刺の機能性に付け加え、風合いの増したこの絶品の垂は
眺めて良し、使ってもっと良し、もう手放せない。しかも値段が安い。
今は面を注文している。もちろん顎の飾りは宮崎選手使用のバッテン。今度はどのような感動を味
あわせていただけるか
今から非常に楽しみにしている。
職人の心のこもったこの絶品の防具は、さすがに一流選手の愛用するし使いやすい、剣道をますます
好きにさせてくれる。魔法の防具である。
群馬県在住37歳 K.M
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